ショートショートの披露場

短い小説を書いています

サンタクロースの正体

 みんなはまだ気づいていないけれど、ぼくは気づいてしまった。サンタクロースの正体がニンジャだってことに。
 最初は全くふしぎには思わなかった。イブの夜に、世界中の子供たちにプレゼントを配っているおじさんがいるのか。ぼくのところにも来てほしいなって、のんきに浮かれていた。
 でも、友達とかお父さんやお母さん、いろんな人からサンタの話を聞くうちに、サンタクロースって本当は何者なの?と疑問を持つようになった。
 サンタの本拠地はグリーンランドらしいことはネットで検索したらすぐに出てきた。サンタは1人じゃなくていっぱいいるらしいから、みんなで手分けして飛行機とか電車で移動しながらプレゼントを配っているんだろうな。
 SNSとかを見てみると、サンタからプレゼントをもらえた!ありがとう!嬉しい!という投稿がよく出てくる。これ、子供だけじゃなくて大人でももらってる人がいるのかな。ぼくも大人になってもプレゼントほしいな。
 いや、そうじゃなくて、ほしい情報が出てこないな。プレゼントをもらえた報告はこんなにあるのに、そのプレゼントを届けてくれた人の情報がほとんどない。プレゼントを持ってきてくれたサンタと2ショットの写真を撮ってネットにあげてる人がいてもよさそうなのに。
 誰もサンタの配達現場を見ていない。これが、ぼくがサンタを疑い始めたきっかけだ。
 よく考えてみよう。ネットで出てくるサンタ、テレビから流れてくるサンタ、街でサンタのコスプレをしている人。その姿を思い出してほしい。頭頂部に白いボンボンのついた真っ赤な帽子。上も下も赤い服。そして、プレゼントを入れてあるであろう白くて大きな袋を持っている。それにひげだって猫が隠れられるくらいたんまりと生えている。そんな格好の人が家に入ってきたり、家に入ろうとしてたらみんな普通は写真を撮らない?クリスマスの時期ならサンタだろうからって、気にもとめないの?
 もしサンタの正体がニンジャだとしたら、このへんの説明がつく。
 名探偵コナンに出てくる怪盗キッドは、泥棒なのに全身白い服を着ている。その理由は、原作でコナンとキッドが対決した事件で、コナンが推察してそれにキッドが補足する形で明らかにされている。おそらく、サンタはキッドと同じ理由であんな派手な格好をしているんだと思う。
 サンタが普段目立つ服を着ているのは、家に侵入しやすいからだ。
 プレゼントを配るのはたいてい夜中だ。そんな時間帯に赤い服で人の家に忍び込むなんて完全に不審者だ。だが、サンタがニンジャだとしたら、その問題を解決できる。
 ニンジャなら全身黒ずくめだから夜にまぎれるのも簡単。諜報活動をするニンジャなら、人の家に忍び込むのも余裕。
 それにみんな、プレゼントを置きに来たサンタを探そうとしても、サンタ=赤い服と思い込んでいるから、夜にまぎれる黒い服のニンジャ(サンタ)をなかなか発見することができない。
 これが、ぼくがサンタはニンジャだと思う根拠だ。
 ぼくは確証を得ようと、去年事件を起こした。クリスマスイブに部屋中をきれいに掃除してからベッドに入った。翌日、プレゼントが届いていることを確認して一通り喜んだあと、
「お父さん、お母さん、ぼくのパソコン知らない?」
と、ぼくが大切にしているchromebookが失くなったように装ったのだ。
 どうにか2人をぼくの部屋には入れないように家中を探し回って、狙い通り警察に被害届を出してもらった。鑑識さんが調べた結果、部屋からはぼくが出入りした形跡以外なにも発見されなかった。
 やっぱりだ。サンタはニンジャなんだ。
 24日に部屋を片付け、25日に警察に相談して、26日には鑑識さんが来てくれた。その間、ぼくとプレゼントを置きに来たサンタ以外は誰も部屋を出入りしていない。にも関わらず、部屋の主であるぼくの痕跡は当然として、サンタの痕跡が見つからなかったということは、サンタは自分たちの正体に気づかれないように注意を払っているということになる。
 サンタのあの格好が本物なら、ひげの1本や2本は落ちていそうなものだ。あれだけたっぷり蓄えていたらなおさら。それがないということは、素肌が目しか出ていない全身黒い服を着ているニンジャだというなによりの証拠だ。
 ちなみにchromebookの件は、こっそり学校に隠しておいたので、鑑識結果が出てから回収して、学校に置き忘れていたと親や警察に報告した。サンタはニンジャだという確証は得られたが、信用という大切なものを失ってしまった。
 結局、サンタニンジャがプレゼントを配っている現場を押さえることはできていない。推論だけじゃサンタクロースは本当はニンジャなんだよって説明しても説得力に欠ける。部屋に監視カメラを仕掛けたとしても、暗い部屋に黒い服で入って来られたらよく映らない。
 ここまでかな。本物のニンジャ、一目でいいから見てみたかった。
 今年の9月に、お父さんの仕事の都合でマンションに引っ越した。20階建てで、部屋は10階だ。ここの住人でない人はエントランスで警備員に止められるし、オートロックだからもうさすがにニンジャでも入って来られないだろうな。
 残念だけど仕方ない。クリスマスにサンタさんからプレゼントをもらうのも去年が最後だと、あきらめて寝ることにした。
 そしてクリスマスの朝、ぼくは驚いた。枕元にプレゼント用に包装された箱が置いてあった。嬉しさのあまり、お父さんとお母さんに興奮しながら報告した。
「お父さん!お母さん!プレゼントだ!サンタが届けてくれた!」
「おお、そうか。よかったな」
「中身なんなの?早く開けてみたら」
「お母さんはせっかちだなあ。ぼくはサンタが来てくれたことが嬉しいんだ」
「っ!もういつの間にこんな立派に」
「じゃあ中身ゲームだったらお父さんが先にやっていい?」
「お父さんはデリカシーがないなあ。サンタがここまで来る苦労に、ぼくは思いを馳せているんだよ」
「ああ、確かにここセキュリティ厳しいから、サンタさんからしたら入りにくいわね」
「魔法でも使って、案外楽に入って来たんじゃないか?」
 魔法なんて使わないよ。サンタの正体はニンジャだから忍術を使ったんだよ。そう言おうと思ったけど、信じてもらえないだろうから、やめた。



この物語はフィクションです。