ショートショートの披露場

短い小説を書いています

惑星サミット

とある国の大統領官邸に一通の手紙が届いた。
「閣下、スズス星からの通知です。来月行われる惑星サミットの案内のようです」
「そうか、もうそんな時期か。あの星のチーズはとても美味しいからなぁ。一つの店のチーズ、全部買い占めちゃおっかな」
「いけませんよ、閣下」
「ハハハ、冗談だよ。参加する旨をきちんと伝えておいてくれるか?」
「かしこまりました」
西暦3333年。科学技術の目覚しい発展により、宇宙開発は急速に進歩していった。人類は、地球から数10万光年も離れた所にあるいくつもの惑星を発見した。それだけでなく、探索を続けることで、様々な生物、鉱物、食物、文明なども発見した。地球人は異星人たちとの争いを乗り越え、様々な条約を締結し、平和的に共存を図っていた。最初こそ小さないざこざはあったが、互いに腹の内を見せ、一歩ずつ歩み寄ることで、徐々に相互の親睦を深めることに成功した。
一年に2回、互いの星のさらなる発展のため、条約を結んだ星の代表者たちが集まって会議を行う。それがいわゆる惑星サミットだ。この会議には、様々な星が参加し、その星の代表者たちが約20人ほど出席する。開催する星は予め決まっていて、永世中立星のスズス星で行われ、司会・進行役などもスズス星から選出される。
会議当日。続々と、参加者たちが円卓のある広い会議室に足を踏み入れ、会議前の挨拶を交わし、談笑している。会議開始20分前。地球の代表者たちが揃って会場入りした。
「こんにちは、セントロさん」
「これはこれは、レストンさん。お久しぶりです」
地球の代表者たちは、入口の近くにいる代表者たちから順々に挨拶をしていく。
「最近、ゴルフ行けてますか?」
「いやー、忙しくてなかなか行けてませんね」
「では、来月あたり、ご一緒しませんか?」
「いいですな。あ、ですが、来月の上旬はフェッツ星とその周辺の惑星訪問が続くので、中旬以降でよろしいですか?」
「もちろん、構いませんよ。コースはグリス星のハヤシコースでいかがでしょう」
「あそこは緑が綺麗で素晴らしいコースですからね。問題ありませんよ」
地球の代表者たちが挨拶回りをしている間に、会議開始時刻となった。
「お集まりの皆様、まもなく本日の惑星サミットを開始致します。ご着席ください」
司会・進行役のスズス星の一人がアナウンスし、いよいよ惑星サミットが幕を開ける。
「皆様、遠路遥々お越しいただき、誠にありがとうございます。私、本会議の司会・進行を勤めさせていただきます、スズス星ロモン共和国のナーナと申します。よろしくお願い致します」
ナーナは隣にいるもう一人の司会・進行役にマイクを渡す。
「同じく、本会議の司会・進行を勤めさせていただきます、スズス星ローザンヌ共和国のハリと申します。よろしくお願い致します」
ハリはそのまま会議の趣旨を述べる。
「本日の議題は、自星における他惑星住人の犯罪についてです。年々、僅かではありますが、その犯罪率が上昇しております。皆様方の星における犯罪の現状について報告していただき、今後どのような対策をなされるのか、お考えをお聞かせください。まずは、ブリトリ星の代表者様からお願い致します」
「はい。我が星の犯罪の現状についてですが……」
ナーナとハリに促され、各星の代表者たちが、予め用意してきた資料に時々目をやりながら報告していく。
「……というように、我が星では軽犯罪が目立ちますので、今後は、街の防犯カメラや巡回ロボットの台数を増やす計画を立案中です」
ここでようやく、参加している星の半数が報告を終えた。約10分間の休憩時間が設けられた。トイレに行く者もいれば、外の空気や煙草を吸いに行く者もいる。休憩はあっという間に終わり、参加者たちが再び会議室に集合する。
「それでは、会議を再開します。続いて、トゥーピ星の代表者様、お願い致します」
「はい。我が星では、10年前と比べ軽犯罪も重犯罪も倍近く増えております。ここで注目していただきたいのは、犯罪の件数もそうですが、いったい誰が罪を犯しているのか、という点です。我が星の国際警察の調査によりますと、最近地球人による犯罪が増加していると」
地球の代表者たちは、揃ってしかめっ面をした。そのうちの一人が凄むように、
「何かの間違いでは?」
と言うと、トゥーピ星の代表者たちは一瞬怯んだ。さっきまで発言していたトゥーピ星の代表者に代わり、別のトゥーピ星の代表者が報告を続ける。
「最近増えている犯罪の中で、特に目立つのは麻薬です。トゥーピ星では、土壌などの関係で麻薬は大変育ち難いのです。にも関わらず、麻薬を所持しているトゥーピ星人が増えているのです。逮捕した者に話を聞いてみると、半数近くが地球人から買ったとの調査結果を受けております」
このトゥーピ星の代表者たちの話を聞き、まだ報告を終えていない星の代表者たちが、私たちの星でも地球人による犯罪が増えていると一斉に発言し始めた。
「私たちの星では、逆上し、警察官に手を上げる地球人がいる。法律違反で警告を受けたり、逮捕された時に『俺の星では当たり前の行為なのに、なぜ注意されなきゃいけないんだ!』とか『私の星では法律違反ではない。これは不当な逮捕だわ!人権侵害よ!』と声を荒らげ、すぐに騒動を起こす者までいる始末。このままでは状況は悪化するばかりだ。早急に地球の代表者の方々には、具体的な解決案を提示していただきたい」
こういった地球人の暴挙を問題視している星が多く、この意見に賛同する星の代表者たちの野次が会議室に飛び交った。ナーナとハリは焦り、とりあえずこの場を落ち着かせようと声を震わせながらアナウンスした。
「み、み、皆様、せ、静粛に願います」
「い、今はまだ各惑星の報告の時間でございます。後ほど、意見交換の時間を設けてありますので、他惑星への助言等はその際にお願い致します」
二人の努力も虚しく、会議室の沈静化には至らなかった。野次を飛ばしていた代表者のうちの一人が、地球の代表者たちに顔を向けた。
「さっきから黙っているが、何か策はありますか?地球の代表者様方」
そう言われた代表者の一人が声を上げた。
「どんなに小さな法律でも違反した者は即刻強制送還させる、というのはいかがでしょうか」
それで納得する者もチラホラいたが、大多数が低く唸り、考え込んでいた。その大多数のうちの一人が、
「それだと犯罪者を減らす根本的な解決はできないのでは?」
と発言すると、地球の代表者の一人はたまらずこう返答した。
「では、我々にどうしろと仰るのですか?皆様の率直なご意見をお聞かせください」
この場に正答できる者など、ただの一人もいなかった。





この物語はフィクションです。