ショートショートの披露場

短い小説を書いています

2020-01-01から1年間の記事一覧

喫水店

あまりの激務で疲れ果て、口を開けて休憩しているところに、同僚が声をかけてきた。 「気分転換に外でも歩かないか?」 正直乗り気ではなかったが、屋外に出たほうが気分が晴れると思い、同僚に続いていった。 「オススメの喫茶店があるんだ。『Blue』ってい…

愛する人

オレは今、トイレにいる。お食事中の方がいたら申し訳ない、謝ります。トイレで何をしているかと言えば、当然だが用を足している。トイレは排泄の場であり、オレはここで用を足す。それだけに集中する。携帯を操作したり、新聞などを読んだりはしない。用を…

迷子

田上さん(仮名)の話によると、それは日付が変わるか変わらないかぐらいの、深い夜のことだった。その日は仕事が早く終わり、久しぶりに同僚と飲みに行くことにした。数人に声をかけ、都合の良かった高岡さん(仮名)と小松さん(仮名)と合わせて3人で飲む…

嫌われた男

えっ、先輩、禁煙始めたんですか?珍しいこともあるもんですね。雪でも降るのかなあ。痛っ、冗談ですよ、先輩。真に受けないでくださいよ。 じゃあ食後の一服はあそこの自販機でコーヒーでも買いますか。ほら、ちょうど近くにベンチもありますし、これだけ天…

夢のような装置

今日の空は一面綺麗な青が広がる晴天だったが、中村一幸の顔は曇っていた。 「どうしようかなぁ……」 数時間前、中村は関京大学内の研究棟B棟の第8研究室にいた。1限からゼミの集まりがあり、重たい瞼をこじ開けるのに必死だった。他の学生たちもまだ眠そうに…

ペット

「お母さん!ねぇ、お母さん聞いて!」 美姫は帰宅するなりランドセルをポイっと廊下に放り、叫んだ。 「美姫、帰ったら『ただいま』でしょ。それと、物はもう少し丁寧に扱いなさい」 「それよらお母さん、聞いてよ!さくらちゃんがね、犬を飼い始めたの。柴…

リベンジリボルバー

「おい、何読んでんだよ」 僕が自分の席で大人しく本を読んでいると、いつものように上田たちが絡んできた。上田悠人、松阪弘太、日高一平。3人はこのクラスの不良ポジションにいる。そんな奴等が積極的に僕をいじめるので、クラスメイトたちはいつも見て見…

惑星サミット

とある国の大統領官邸に一通の手紙が届いた。 「閣下、スズス星からの通知です。来月行われる惑星サミットの案内のようです」 「そうか、もうそんな時期か。あの星のチーズはとても美味しいからなぁ。一つの店のチーズ、全部買い占めちゃおっかな」 「いけま…

みんなのサンタ

12月20日金曜日。雪こそ降らないものの、肌を突き刺すような寒さが続いている。天気予報によると、来週はいよいよ雪が降るようだ。人々は今年はホワイトクリスマスになるぞと喜びを表にする。キリストの誕生を祝う祭りを前に、待中が賑やかになる、そんな日…

戦争

「くそっ!」 隊長はその身を挺して、敵の攻撃から俺を守ってくれた。 「すみません隊長……自分の不注意で……」 「気にするな……。それより、早く負傷者を連れて逃げろ」 「はい!」 仲間が隊長を担ごうと手を伸ばしたが、隊長はそれを制した。 「俺はここで敵…

運動会

「さあ!今年も始まりました〇‪✕‬第一中学、頭の大運動会!実況は私、放送委員の栗原鞘香と」 「同じく放送委員の早坂唯が務めさせていただきす!皆さん、盛り上がっていきましょう!」 〇✕第一中学校に限った話ではない。子供たちに身体能力を競わせる運動…

政治家の権力による国民のための政治

円卓を囲む世界の長たちは頭をが抱えていた。 「世界の人口が100億を超えてもう何年になるんだ」 「有識者の中には200億を超えるのにそう時間はかからないという者もいるぞ」 「どうやって手を打つんだ」 「我々の国は承知の通り、宇宙開発に力を入れている…

願い事一つ

「ここに5億円ございます。どうかこれをお使いください」 こんなことを言われて驚かない人はいないだろう。吉田征一郎も当然、心底驚いた。 吉田は物理学者で、今はタイムマシンの開発に心血を注いでいる。もう少しで完成する段階まできているのだが、当初の…

現代版 浦島太郎

「今日の練習はここまで。グラウンドの整備をしてから帰るように。ありがとうございました」 「ありがとうございました」 コーチの挨拶の後、少年たちは散らばっているボールを片づけたりトンボで地面を均したりして、素早く整備を終わらせた。 「お疲れ」 …