ショートショートの披露場

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戦争

「くそっ!」
隊長はその身を挺して、敵の攻撃から俺を守ってくれた。
「すみません隊長……自分の不注意で……」
「気にするな……。それより、早く負傷者を連れて逃げろ」
「はい!」
仲間が隊長を担ごうと手を伸ばしたが、隊長はそれを制した。
「俺はここで敵を食い止める!だからお前らは先に行け!」
「そんな!隊長を置いて行くなんてできません!」
「隊長命令だ!従え!お前ら、こいつも連れてけ!」
「し、しかし……」
「いいから行け!」
命令に背いてでも、隊長と、そして仲間と共に帰還したかった。しかし、とうとうそれは叶わぬ夢となった。仲間に手を引かれ、隊長を戦地に残して、俺たちは帰還した。
隊長と会うことは、もう二度となかった。
あれからどのくらい時間が過ぎたのか、皆目見当もつかない。毎日が戦争で、毎日誰かが死んでいってる。そういえば、家の向かいに住む家族も、とうとう全滅したらしい。最後まで生き残っていた家主の甥っ子は、何でも、敵の新兵器にやられたと聞いた。その新兵器というのは、冷却ガスを発射する装置で、その冷却ガスを相手に浴びせ、動きが鈍ったところを叩いてくるんだとか。敵の奴らも勝とうと必死らしい。こっちだって負けてはいられない。
と、意気込んではみるものの、やはり、互いに争わずに共存していくのが理想だろう。もうこれ以上、仲間が死ぬ姿を見たくはないし、それに、いつ家族がやられるかもしれない。怖くてたまらない。戦闘の第一線にいる俺がこんなことを言うと、臆病だと言われるだろう。それは、俺がまだ若く、戦場に来て日が浅いからだと言い訳しておこう。誰だって「死」を見るのは怖いし、「死ぬ」のも怖い。でも、戦争に明け暮れる毎日を過ごせばいつかは、死の恐怖に慣れる、いや、死の恐怖に「慣れてしまう」日が来るだろうと、俺は考えている。
以前、娘にこんなことを尋ねられた。
「ねえ、パパ。どうして戦争はなくならないの?」
俺ははあの時、答えられなかった。答えが分からなかったからだ。戦場でも足を引っ張らない程度には動けるようになったし、家族もいっぱいできたし、もう一人前の大人だという自覚はあった。子供の頃は分からなかったが、大人になれば自然とそういうことも理解できるようになると思っていたが……。
あの日から数年経った今、また娘に同じ質問をされた。
「パパ、何で戦争はなくならないのかなぁ?」
俺はまた答えられなかった。
「どうしてだろうなぁ……」
俺は答えが見つからず、下を向いていると、息子がやって来て代わりに娘にこう答えた。
「神様が悪戯してるからだよ。神の奴ら、オレたちが血を流して闘ってるのを見て楽しんでるんだ」
「そんなこと、神様がするわけない!神様はもっとこう……優しい存在だよ!」
「優しい神なら、苦しんでるオレたちをほっとくわけないだろ!」
「それは……」
息子に捲し立てられ、娘はたまらず泣いてしまった。俺は娘をなだめようとするも、なかなか泣き止んではくれなかった。情けない。自分が情けない。
「相手が神じゃ、オレたちじゃどうしようもない。だからせめて、この怒りを敵にぶつけるしかないんだ……」
そう言い残して家を出た息子を、俺は止められなかった。怒りをぶつけても、相手の怒りを買うだけだと息子に言い聞かせても、じゃあどうすればいいと訊かれたら、また黙るしかない。その躊躇いが、息子を制止しようと伸ばした手を遮った。
未だに娘の問いに対する答えを見つけられないでいる。もしかしたら、答えなんてはじめからないのかもしれない。あるいは、この世の全ての生命の数だけ答えがあるのかもしれない。いつになるかは分からない。が、俺は諦めない。必ず答えが見つかる日が来ると信じて、毎日毎日必死で戦って生き抜こうと思う。俺を支えてくれる家族のためにも。
「今回の任務は主に食料の調達だ。そして、敵の新兵器に関する情報収集も行うが、こちらはくれぐれも慎重に実行するように」
「はい!」
「よし。チームごとに配置に就いたら合図を待て。出動!」
新隊長の号令で、一斉に動き始める隊員たち。いつ命を落とすやもしれぬ戦場にこれから赴くというのに、隊員たちの顔に恐怖の色はない。今はまだ落ち着いているだけなのか、それとも、彼らの強い覚悟や決意が恐怖を上回っている表れなのか。
「隊長!総員、配置に就きました!」
「よし。では、これより作戦開始だ。行くぞー!」
「アイアイサー!」
敵地に侵入する以上、任務が戦闘でなくても死ぬ確率はゼロではない。油断はできない。それでも、絶対生きて帰るんだ!

「うわっ、ゴキブリ。マジキモいんだけど」
「どうしたんだい、マイハニー」
「ねえ、ダーリン。あのキモいの殺して」
「また出たのか。任せといて」
「ありがと」





この物語はフィクションです。