ショートショートの披露場

短い小説を書いています

2021-01-01から1年間の記事一覧

サンタクロースの正体

みんなはまだ気づいていないけれど、ぼくは気づいてしまった。サンタクロースの正体がニンジャだってことに。 最初は全くふしぎには思わなかった。イブの夜に、世界中の子供たちにプレゼントを配っているおじさんがいるのか。ぼくのところにも来てほしいなっ…

人生の最高の終わり方

親が目の前で死んでくれることでどれだけ救われるか。この安心に近い感情を理解したがらない人間がいるとしたら、その方はかなり過去に生きているのでしょうね。 常識や当たり前や価値観というものは時代や環境によって変わるものだから、別に否定はしません…

ホクロ

朝起きたら右腕にホクロができていた。大きさはだいたい1~2ミリくらいで色も薄いから、その時は気にならなかった。 数日後、今度は左の肩にホクロができた。大きさも色の濃さも右腕と大差なかった。どうせ日中は仕事でスーツを着るのだし、ジャケットを脱い…

ボタン

平日の午前中ということもあって、駅前行きのバスには運転手が1人と乗客が5人だけだった。バス後部の2人掛けの席に座る女性は、息子の研人が公共の場にふさわしくない行動を繰り返すので、てんてこ舞いだった。 「ケンくん!お願いだから大人しくして!」 そ…

財産

せっかくの良い天気なんだが、こうも身体がダル重いとなかなか仕事に身が入らない。が、いい年してうだうだ言ってるのもカッコ悪いので、コーヒーを1杯飲んで集中する。 職場のデスクに着くと、部下の坪井が来た。 「相田さん、おはようございます。今日回る…

人違い

本屋さんでむずかしそうな本たちとにらめっこしてるパパに声をかけた。でも振り向いたらちがう顔だった。知らない人だ。 あやまらないといけないけど、はずかしくてモジモジしてたらそのおじさんが「パパと間違えちゃった?」ときいてきた。うん、と頷いたら…

仕事

その男は片側2車線の県道沿いにいた。 桜の見頃を迎えるこの時期らしく、午前中からとても暖かい。これくらいなら上着はいらないと思われるが、男の傍らには薄手のジャケットが置かれていた。 「夕暮れ時は意外と冷えますからね。念のため、持ってきてるんで…

あの雲、綿あめみたいだな。でも雲ってだいたい綿あめみたいな感じか。……実際はどうなんだろう。甘いのかな。でもどうしよう。手が届かない。あ、そうだ。写真に撮ってみよう。カシャ。よし、これで現像した写真から雲の部分を剥がして食べてみよう。……うん…

ウサギとカメ

ある小さな島で毎年行われる祭りが、今年もやってきた。出店が並んだり、神輿を担いで村をねり歩いたり、例年と同じく賑わいを見せていた。 2日に渡って行われるこの祭りの最後は、必ずある競技で締めくくられる。それは一対一の賞金レースである。小さな島…

オレオレ詐欺

お昼を食べ終えて皿を洗っていると、電話が鳴った。もしもし、と応えると、 「あ、もしもし。元気?オレだよオレ」 と返ってきた。いまだにあるんだねえ。オレだオレだと息子を名乗る詐欺電話。とうとううちにも来たか。そうだ、録音録音。 「元気だよ。久し…