ショートショートの披露場

短い小説を書いています

喫水店

あまりの激務で疲れ果て、口を開けて休憩しているところに、同僚が声をかけてきた。
「気分転換に外でも歩かないか?」
正直乗り気ではなかったが、屋外に出たほうが気分が晴れると思い、同僚に続いていった。
「オススメの喫茶店があるんだ。『Blue』っていうんだけど、知ってるか?」
「ああ、〇〇通りのやつか。入ったことはないけど、店の前を通る時に店内を見た限りじゃ結構人入ってるよな。パッと見、いろんな人が来てた」
「そうなんだよ。子供からお年寄りまで、カップルにもファミリーにもウケがいい。人気の秘密はやっぱアレだよな」
「アレってなんだよ」
「知らないのか。見たら驚くぞー」
なんだろう。喫茶店なんだし、やっぱりコーヒーや料理が美味いとかだろうか。いや、カップルにもファミリーにも人気となると……写真映えするメニューか、一人じゃ食べきれない特大サイズの料理か。はたまた……。
予想がまとまらないうちに店に着いてしまった。同僚に続いて店内に入ると、そこに広がる光景に驚いた。
整然と並べられたテーブルと椅子。店内を広く見渡せるキッチンとその目の前にはカウンター席が設けられている。内装は普通だが、一点だけ。他の喫茶店とは違う『Blue』のセールスポイントに目を奪われた。
窓の外を魚が泳いでいる。しかも一種類じゃない。海藻もある。なんだこれは!
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
店員に声をかけられて我に返り、案内された席に着いた。
「な?驚いたろ」
「ああ、まるで水族館みたいだ」
「これが人気の秘密だよ」
なるほど。確かにこれはいい。小さな水槽で飼われている熱帯魚もリラックスできていいが、こういう大パノラマで見るのもいい。それに生き物の種類も多い。小魚の群れが通ったと思ったら、今度はクジラがゆっくり泳いできた。面白い。
「何か食べるか?」
「忘れてた。ここ、喫茶店か」
「気に入ったみたいだな」
「ああ、とても」
何も頼まないのも悪いと思い、とりあえずブレンドコーヒーだけ注文した。
「ずっといられるわ」
「分かる」
「見てて飽きないし、癒される」
「時間忘れるよな」
「もっと早く教えてくれよ」
「悪い。一人占めしたくて」
「ところで、これ、どういう仕組みなの?」
「おれも詳しくは知らないんだけどな、カメラで捉えたリアルタイムの映像の中で、動くものに生き物を投影して、それをこの窓に映してるらしい」
「へえー。通りから店内は普通に見えるのに、こっちからだけこの景色が見えるのすげーな」
「ここのマスターが大学教授と知り合いで、造ってもらったんだって」
なるほど。これだけ大きな窓でできるってことは、水槽とかテレビとか小さいものでもこういうことできるんじゃないか。羨ましい。うちにも欲しいな。カメラを設置するなら、やっぱりベランダ?いや、それじゃ対象物が小さくなるから、マンションの玄関のほうがいいか。
「ずっと見ていられる」
「さっきも聞いた気がする」
「本物の水族館だとさ、生き物ごとに水槽が分かれてるけど、ここは一つの水槽に全員集合してるし、腰を下ろしてコーヒー飲みながら楽しめるのもいい」
「言ってなかったけど、外が暗い時に来ると深海魚中心に現れて、昼間とは違う雰囲気が味わえるぜ」
「マジか。いいなぁ。仕事辞めてずっとここにいたい」
とても居心地が良く、ここが喫茶店であることも忘れていた。コーヒー一杯で長居するのも申し訳ないので、またブレンドコーヒーを注文した。
ふと、店の奥のほうの窓を眺めていると、周りの魚に体当たりを繰り返しながらこちらに近づいてくるサメが目についた。
「なぁ、サメがこっちに来るぜ。まさか、この窓割れないよな?」
「大丈夫だろ。でも珍しいな。あの大きさだと車だろ?なんで……」
すると、突然同僚は立ち上がり、大声で叫んだ。
「みんな逃げろ!早く!」
訳が分からなかった。
「どうしたんだ、急に」
「早く逃げるぞ!あれは





この物語はフィクションです。